「おそ松さん」17話 しんどい私は私でしかないという話
どうも、こんにちは。
マクラにしたかったことは先日書いてしまったので本題に入ります。
「十四松まつり」です。
いやはや、衝撃的でしたな。
今回、正直「哲学」なのでかなり文章がとっちらかっていますがご了承ください。
今回は、短編オムニバス形式なので、あらすじは置いておきますが、
私はこの短編の並びは意図的なものだと思っておりまして、その話をするためにも、まず最初に全体を二つ、(正確には三つ)に分けます。
「十四松と概念」以前と
「十四松と概念」以後、というように分割、加えて
「十四松と概念」です。
そうです、今回は前編を通して、十四松の「自己認識の話」でした。
それを、「概念」以前と以後に分けて語っていきたいと思います。
私は9話感想、そして番外編で述べたように、十四松についてこのように考えていました。
彼は誰の地雷も踏まないように、誰の条件にもひっかからないように生きることで居場所と承認を得ている。そのために誰の内部にも踏み込まない。彼はなごみ世界における鑑識(固有の名前を持たず、他にも大勢おり、代役も可能)、つまりはモブである。彼はその「誰にも踏み込まない、踏み込めない」生き方を選んだ代償として、彼女とはお互いに責任を取り合う大人としての関係を築けなかった。
それは15話での面接、今回でも同じです。彼はまっとうな思考力を持って、ああいった態度をとっています。「言えばやめてくれるッ!」は最高に好きな台詞ですが、その通り、彼は言えば通じますし、ふざけはするけれど積極的に誰かを傷つけようともしない。彼は人が望むままに形を変える、不定形の生命体です。(その方法が大変に突飛で人知を超えすぎている、というかもう人間なのかも疑問なレベルだから面白いのですが)
十四松とカラ松がパチンコに行った際ですが、彼はおそらくカラ松の言うことを理解していたでしょう。あれはその上でふざけて遊んでいたと考えられる。他の兄弟たちが出払っているということを何らかの方法で察していた可能性もあります。私の見立てですが、カラ松は松野家家族ゲームからすでに抜けている状態にありますので、十四松としては楽な遊び相手だと言えるでしょう。
彼が本当のところ、真面目に言えば、「兄さんがパチンコに勝ったことを言えば兄さんが集られる可能性がある、だからみんなには言わない方がいい」と考えていたことは自明です。だから彼はトド松に問い詰められたとき、迷った。
「嘘をつかない」「報告は必ず」は他数人の地雷に抵触するルールです。六人全員を前にしては、それは守られねばなりません。しかし十四松はカラ松を即裏切ることもできなかった。
さらに不運なことには他の兄弟達は沈黙していました。他の3人が乗ってくれれば、彼はパチンコ警察とスタバァを再演してみせたことでしょう。
どちらにもつくことができなかった彼がどうなったか。キャパシティオーバーです。
不定形生物である彼は、常に自分の取るべき行動を周囲から察した情報から選択します。そこに自我はありません。
そんな不定形生物十四松が、キャパシティーオーバーを起こした後に考えることとして、この疑問はまったくもって自然です。
「僕って、何なんだろう」
「十四松と概念」です。
というわけで十四松と概念の話を詳しくするんですけれど、私はこれを見ながら号泣していたのでちょっと冷静な判断がつかなくなっているかもしれないのでそこのところよろしくお願いします。はぁ。
自然な疑問として沸いた「僕って、何なんだろう」という問い。
彼はこの大きな問題に対し、真っ向から挑みました。それはさながら、爆弾を処理するために銃弾を打ち込むような処理の方法です。
そうして、つきつめていった結果、彼の周囲の世界は見え方が変わってきます。声も、形も、言動さえも関係ない。そこに残るのは「僕」を思考する「僕」。
十四松は何がどうあろうと十四松なのです。その圧倒的な事実の前には、自己認識や存在意義といった悩みは不毛です。自分をどう捉えようが彼は彼以外の何にもなることはできず、存在意義があろうとなかろうと十四松はそこに存在し続けます。
それはひとつの悟りであり、彼にとっての新しい世界の見え方です。
さて、十四松がこれを、一つ上の兄であり「おそ松くん」時代からの「一番一緒にいる時間が長い」一松に投げかけたというのはものすごく重要です。
問いが十四松個人の思考を超えて、言葉になる、世界にたち現れるためには、一松という存在が必要でした。
十四松と一松のありかたは対照的です。一松は自分の存在というものをきちんと認識し、把握し、把握したが故にそのために自己否定に走ってしまっている青年です。だからこそ、そこにがんじがらめになって身動きがとれなくなっている。彼の暗さと卑屈さは誰かからの攻撃などによって形成されたものではなく、過剰なまでの自意識からくるものです。
前回、彼は、格好を変えて口調も変えてあれだけ窮地に追い込まれても、それでも馬鹿正直にはなれなくて恥をかくのが嫌で感謝の言葉も素直に言えない自分とひたすらに向き合わなくてはなりませんでした。そんな彼は、自分が変わることができない苦しみを知っていたはずです。
「僕は僕でしかない!!」
それはひとつの祝福であると同時に、絶望でもあります。私は私から逃れられない、その地平は荒野です。それだけであれば。
質問という言葉になったことで、「僕とは何か」という問題は「彼個人の問題」から、「世界の問題」になりました。
その結果、世界は「僕でしかない僕」「俺でしかない俺」の集合体になりました。僕が僕でしかないように、目の前にある一松兄さんも、一松兄さんでしかない。そして、違う方法でその地平にたどり着いていた一松にとっても、目の前の十四松は十四松です。
「私は私でしかない」ことのもたらす救いと苦痛が出会った時に、そこにはただ、別個の存在である「あなたと私」があるのみになります。
すさまじい世界の転換です。これにたったの5分です。
ここから先、「私は私でしかない」ステージに至った十四松は、様々にそのステージの可能性と限界を見せていきます。
十四松を十四松として定義づけられるのは十四松だけであり、プロ野球選手という肩書きもテレビも看護婦さんも、それを保証してはくれません。
博士の薬が効いたから透明になったのか、彼が元々透明になれる人間なのか、彼が言ったことからしか真偽を判定することはできません。なぜなら私たちは別々の存在だからです。
十四松パンとティンカーイチは、自分にとっての「夢のある場所」が、トト子ちゃんにとっての「夢のある場所」と同一ではない可能性に悩みません。
「私は私だ」の次にやってくるものは、「あなたは私ではない」です。
それは良いことでもあり悪いことでもなく、だからこそどちらの面も持ちます。トト子ちゃんはドミニカに置き去りにされて困ったことでしょう。
しかしながらこれは高依存状態にある六つ子という思想を殴り倒す武器です。十四松が六つ子に向けてこれを直接的に使ったとき、トド松のラインの時と同じように、決定的な打撃となるでしょう。
いやはや、もう、とんでもない話です。一話すべて十四松のために使う価値があったというものです。
十四松、そして一松は、六つ子の世界を破壊する強力な武器を得ました。静かにカウントダウンは始まっています。
恒例の私の話をしますが、私は小さい頃から「「本当の私」というものがどこかに存在する言説」というものが嫌いでした。そのため、真面目な十四松と明るい狂人十四松、どちらが真実かという話題にも実のところ興味はありませんでした。
中学生の頃、そういった言説を吐きたくなる時期というものがありますが、私は周囲のそういった言葉をさびしく聞いていました。みんな「本当の私は誰にも見せられない」なんてことを平気でいいます。今はそれが自意識を太らせ始めた子の、生きるのに必要な、悪気のないささやかなかっこつけだったことはよくわかるのです。しかしそれは時に人をひどく傷つけます。
私は生身のまま私として生きているのに、みんなは「偽物の私」を被っていて、その中身を私に見せてはくれないのだ。それは私がきっとみんなに好かれていないからなのだ。すごく親しいと思っていた友人もいきなり「本当のことを言い合える友達が欲しい」とか言う。それは私がたいして大事な友人じゃないという宣告と同じじゃないか。何がいけないのだろう。私は何か悪いことをしたのだろうか。エトセトラエトセトラ……
そのすきまに、「あなたがいないと死んじゃうの」という言葉を持つ人が忍び込んでくるのは容易なことです。
当時の私が言語化できなかった違和感を、一松は「ジャンル」という言葉を使って説明しました。
私がどう動こうとそれは私のバラエティのうちの一つでしかない。誰かの真似をしてしまう私も、真面目な人間だと見せかけたい私も、隠しておきたい変態な私も、そのやわらかいところを誰かにわかってほしいというただの欲求を「本当の私」という言葉で飾りたくなってしまう私も、すべて私です。すべてが私という「ジャンル」に属する切り口の一つです。それでいいのです。
私がね、ずっと疑問で、ずっと苦しくて、成長したことでぼんやりとわかった気になって放置してきたことをね、一松くんがスパンと言ってくれました。
すごいねぇ。ありがたいねぇ。偉いねぇ。
なんだかもう視聴中の精神が六つ子というより一松くんと共に成長する会、みたいなかんじになってきています。頑張れ一松くん。
そして君に十四松という弟がいたこと、十四松に一松という兄がいたということはものすごく幸運なことだ。どうかそれだけは、いつまでも残ってくれますように。
次回はやっとイヤミが帰ってきます。予告では花畑を誰かが刈りとっているようなかんじでしたね。
さぁ楽園は終わりだ!!早いとここの地を無に帰そう!!!
お粗末さまでした。