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バックヤード

アニメ「おそ松さん」を血を流しつつ視聴する

「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」なごみ探偵の探偵力の話

「真実というものは、他人の理解とは無関係です」

 

 

はいはいはい、どーもーおひさしぶりです。

 

 もうね、松が終わって数週間たちましたが皆さん生きてますか?飢えて死んでない?大丈夫?

まとめを書こうと思ったんですが先に大爆弾が来たので語らねばなるまい。

ダ・ヴィンチ5月号「おそ松さん」特集に載った、作家乙一が書き下ろした

「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」!!

 

自称「なごみ信者」の私が読まないわけがなかったよね。田舎在住なのに念には念を入れて書店予約して買ったよね。

 

私は乙一さん、ずっと追ってるとかでは全くないんですが「GOTH」「ZOO」は読んだし「失はれる物語」あたりもわりと好きなんですがとりあえずそんなビッグネームが動くとは思ってなくて本当にびっくりしました。誰だ企画出したの。足を向けて眠れないよ。

ちなみに好きなポイントを挙げるとしたらてきぱきとした容赦のなさと温度と湿度です。(私にとって体質と作家の合う合わないは温度と湿度によるところが大きいです)

 

さらに最高なことに、なんとアニメの話の単なるノベライズではありません(まぁそんなことをさせられませんが)。設定を踏襲した別世界別時空の話です。

そして、別時空にも関わらず、それがもう本当に全く、すごく、とんでもなく「なごみ」だったんですよ!!なごんでたんですよ!!!別の形の「なごみ」だったんですよ!!!

 

というわけでここからはネタバレ大放出になります。まぁ所謂ミステリ(ということにこの段階ではしておく)なので、ネタバレの意味がそれなりに重いです。なので読んでいない方は一旦ここで止めておいて書店に走りましょう。大きいところなら図書館にもたぶん入るのがダ・ヴィンチのありがたいところです。読もう。まだ間に合う。

 

 

 

いいですか…?始めますよ…?

以下恒例のあらすじまとめです。

・イヤミの館で働いている庭師カラ松が死んでいるのが見つかる。チョロ松警部他警察が捜査を開始する。

・密室の謎に空気が悪くなったところになごみ探偵がやってくる。

・謎の男が出てきたりすったもんだの推理の後、メイドのトト子ちゃんが自供する。

・なごみ探偵がトト子ちゃんが可哀想だと言って、イヤミが犯人だという推理を披露

・イヤミが犯人として逮捕される。

 

なんだこれ。

 

 

いやほんと、ほんとこれだけのためにぐちゃぐちゃくっちゃべってトリック分析して、それでこれですよ?なんなんだよほんとに。

 

えーっと、今回いろいろ最高ポイントがあるんですが、とりあえずなごみ探偵がどれだけすごい奴なのかということを物語構造の話をしつつ考えてみたいと思います。

ちなみに私はミステリ好きですが全然詳しくないし体系的にも読んでないにわかなので、すっごくテキトーにフィーリングで喋っています。全国のミステリファンのみなさん、ごめんなさい。石を投げないでください。そのモーションのままオススメの本を私に投げてください。よろしくお願いします。

 

世の中にはミステリと呼ばれる物語のジャンルがありまして、推理小説とも言いますが、とりあえず謎、事件、犯罪が起きてそれを合理的、論理的に解決することを目指す小説のことを指します。

事件があってそれを解決するというのは様々な規模がありますのでその題材としてはわりと小さなものでも成立するのですが(「ぼくはめいたんてい」とかね)、やっぱり殺人は題材として花形ですし、舞台は古い洋館、そこに職業としての「探偵」がいるとくれば、これはもう全力で、さあミステリをやるぞ!!!と看板を掲げて叫んでいるようなものです。

そして今回の提示された謎は密室。ベタです。というか推理小説の殺人現場って大抵何らかの形で密室じゃない?(テキトー言ってます)まぁとにかくすさまじい舞台がお膳立てされています。

それでは、そこでどういう謎解きが展開されたのか?というと、なんと「そもそもミステリとはなんぞや」「謎解きとはなんぞや」ということを考えずにはいられないことが行われたわけなんですよ。

 

以前から話をしていました、「地の文は隠し事はしても嘘をついてはいけない」というルール。ここで言う地の文は所謂天の声だけでなく、登場人物である場合もあります。今回の語り手はトト子ちゃんです。小説、さらにミステリというジャンルではなお厳格になるこのルールに従うのなら、トト子ちゃんは嘘をついていません。隠し事はします。現に彼女は自分がカラ松を殺したことを中盤まで隠していました。しかし彼女はそれについて言及しなかっただけで、嘘をついてはいません。犯人はトト子ちゃんであり、それは揺るぎのない事実です。

語り手であるトト子ちゃん以外のキャラクター達は嘘をつくこともあります。イヤミは事件とは関わりのないところで保身のために必要な嘘をつきました。推理を展開していくには時に登場人物の嘘を見抜くことも必要になります。

とにかく、犯人であるトト子ちゃんは自供しました。カラ松を殺したのはトト子ちゃんです。この段階でこの物語は終わっていたはずでした。なぜなら、この物語が推理小説であるならば、真相が解き明かされることが目的だったはずだからです。

しかし、なごみ探偵は「可哀想だから、別の犯人を考えてみよう」と言って、彼女以外の人間を無理やり仕立て上げます。そしてそれは、イヤミ以外の誰にも止められない。みんなその話に乗っかります。

密室トリックというのは、「どうやって殺したのか何も手立てがない」というところから、様々な方法を探し、それらが全て条件によって否定されたあとで、「この方法でなら成り立つ、そしてこの方法以外では成り立たない」という方法を見つけなければなりません。いくつも可能性がある状態では解決に至ったとは言い難い。その方法の突飛さ、新しさが一つの醍醐味になってきます。

そして、その方法として今回のイヤミ説を成り立たせる氷とワイヤーのシステムのような、言ってみれば「謎のギミック」(特殊な機械から多重人格などの精神疾患、妖怪幽霊超能力まで含む)が登場することもあります。しかしながら推理の過程で提案されるそれは何らかの条件によって、もしくは別の「より現実的な」方法の提案によって否定される率も高い。なぜなら、「謎のギミック」を持ち出してくるためには、「それは実現が可能かという実験」「わざわざそんなものを持ち出してくる背景」という肉付けが必要になってくるからです。そしてその肉付け作業はよっぽど上手くやらないとすごくなんというか、うん、読者が萎えます。

(ちなみに個人的にはそういう「謎ギミック」が出てこないものの方が好みです。なんかこう……やるならこう……最初から「謎ギミックありな世界だよ!!」っていうオーラを出しておいてほしいよね……ただの愚痴です…)

なごみ探偵は氷とワイヤーを使った装置を利用してイヤミが犯人になる理由を作り上げました。本来なら欲しい、これが本当に実現可能かという実験となぜイヤミがチビ太を殺すためにそんなめんどくさいギミックを作ったのかという検証は全くしません。普通に刺して普通に証拠を隠滅したほうが楽です。めちゃくちゃつっこみどころ満載理論なのに、誰もつっこまない。

誰もイヤミを逮捕することに疑問を持ちません。明確に彼が犯人ではないことを知っているトト子ちゃんですら、です。そしてトト子ちゃんの目から見ている私たちですら、終わる頃には一瞬「トト子ちゃんが犯人」という確信が揺らぐ。少なくとも私は揺らいだ。

 

何が言いたいのかというと、

探偵という装置は物語を成立させるルールすら越える力がある

ということです。

小説において「語り手は嘘をつかない」これがあるのは物語を成立させるためです。語り手が台詞として物語の登場人物に向けて嘘を話すことはあるかもしれない、語り手に幻が見えているのかもしれない、しかしその場合であっても語り手は私たち読者に意図的な嘘を提示してはいけないわけです。なぜなら小説は語り手の言葉からしか物語世界を見ることができず、それが崩れた瞬間に物語が物語の形を取れなくなるからです。

しかし探偵というのはそのルールよりも上位にある存在です。彼が「別の犯人を考えてみよう」と言い、「論理的に」解答を作り出せば、真実がそちらに寄り添います。それに従って物語世界そのものがその真実を支持するために動きます。

つまり、真実を解き明かすことよりも、その「探偵」の力をフルに行使して、生み出した真実に物語を奉仕させる力に特化した探偵が「なごみ探偵」と言えるでしょう。

彼はアニメにおいて、謎を解くのではなく、謎を解く必要のない物語へと物語世界自体を変化させました。彼は物語構造自体よりも上位存在、登場人物たちが敵うわけがありません。死体の山の横でパエリアを食べる物語を彼は彼の思い通りに実現しました。

今回のリターンズにおいては、彼は実にスマートに解答を作り出しました。今回、異議を唱えたものは誰もいません。イヤミ以外が探偵の作り出した真実のために動きました。

 

ものすごく怖くないですか?彼はものすごくでかい力の持ち主で、それは物語を破壊しつつ、それでいて何事もなかったように別の形の物語として存続させます。

そしてそのエネルギーは彼が「探偵」であることによっていて、彼がその探偵力をフルに活用した結果です。探偵が物語の終盤で推理を披露すると、それが自動的に真実になります。それはどんな推理小説でも変わりません。彼らはそういう力を持っています。つまりその力に特化したなごみ探偵こそが本当の探偵らしい探偵だと言っても過言ではない(と言う場合大抵は過言ですが)

 

「大いなる物語への奉仕」は私がずっと考えてきたテーマですが、なごみ探偵はそれを登場人物たちに強制することができる力を持っています。そうなるとその物語が彼らの望むものであるのか、ということが大きな問題になってくるわけですが、なごみ探偵は確かに、一定の数の人が幸福になる物語を生み出しています。警察官たちはなごんだ、犯人は捕まった、トト子ちゃんは白いままアイドルになれた。しかしながら殺人の被害者たちやイヤミなど、その物語によってすりつぶされる人間というものは確かに存在しています。ついでに幸福を得た方の人々のあり方が何の問題もないかといえばそうではないでしょう。全体を幸福な物語のために奉仕させる、奇しくも彼の分身が着ている色を思い出すような話ですが、彼の力はそういった性質のものなんです。

 

今回のノベライズによって、なごみ探偵とは何なのか、考えることができました。とても楽しかったです。最高です。きちんとなごみ探偵でした。なごみ探偵とはなんなのかをアニメ終わってから考えさせられるとは思わなかったよ……

 

ついでのようになりますが、他のキャラクターたちもとてもよくわかっていらっしゃる。特にカラ松くん。彼をどこまでもうつくしい犠牲者にしてくれて本当にありがとう乙一先生。彼の職業は庭師、うつくしいものを生み出す一種の芸術家であった彼は、優しいままに、物語を始めるために死にました。ありがとう本編通りです!!最高!!

 

他にも語りたいことはいろいろあったんですがこのへんで。雑な話でしたがミステリファンのみなさまお許しを。楽しく書き散らしてます。なごみはいいぞ。

 

お粗末様でした。