バックヤード

アニメ「おそ松さん」を血を流しつつ視聴する

「おそ松さん」ドラ松CD カラ松オンステージと彼らの有罪証明の話

尾崎を聴きながら書いてます。

 

戻ってきてしまった。お久しぶりです。元気にしております。

なんで戻ってきたかって、この話がしたかったからです。どん。

 

おそ松さん」六つ子のお仕事体験ドラ松CDVol.4

もしも松野カラ松・松野一松が弁護士だったら

 

そういえばなんですが、Vol.2Vol.3の話をしてなかったですね。何故だ。すみません次回やります。とりあえず今回はパッションでこっちの話をさせてください。

発表された当時から「ざわ」「ちゃんと成り立つのか」「会話できるのか」「ざわ」と言われていた二人でしたが、ついにきてしまいました。今日聞きました。一言で言ってつらい。

 

先に聞いておお、と思ったことを書いておくんですがこの二人ってあの6人の中だと声似てるんですよね。それをしみじみ感じました。たぶんカラ松、中村さんの声が「朗々としているけどどこかハスキィ」なんですけど、それで一松の声というのが「ハスキィ」(福山さん曰く完全に喉で出している声)。カラ松が今回ものすごいいろんな声の出し方してるのでそうするとちょっと潰した雰囲気にした時にすごい似るんですよね。いやぁキャストトークでも言っていたけれどカラ松って「素(だいたい泣いてる)」か「カッコつけ(わりとワンパターン)」だったのでいろいろ聴けて本当に楽しい。

 

というわけでここからは毎度のことですが盛大なネタバレです。自己責任でお願いします。

 

 

 

 

とりあえずまず「弁護士」ってなんだろうね。

刑事訴訟では、弁護人として被告人無罪を主張し、あるいは適切な量刑が得られるように、検察官と争う。(wikipediaより)

いろいろ他にもお仕事はあるんですが、とりあえず今回はこれですね。法廷で、専門知識で手助けをしながら被告人の主張を代弁して被告人にとってより望ましい結果になるように争うと。職業なので有償です。

 

で、その上でアニメ本編の話をするんですが、彼ら六つ子たちというのはけっこう日常的にお互いのダメなところを糾弾し合っています。「お前のそういうところは有罪」とちょいちょい言い合っている。仲が悪い?というわけではなく単純にそういうスタンスでいることが総じてあります。

おそ松とトド松によってチョロ松が有罪判決を受けたライジング回はわかりやすい例ですが、他にトッティ回とか、「お前はなんで生まれてきたカラ松」とか「ノーマル四男」とか「人とまともに会話できないくせに」とか、けっこうよくもそこまで切り込むよなってところまで行きます。「灯油が切れてるよ、チョロ松兄さん」もある種のライジングをひきずった有罪判決と見ます。彼らはしょっちゅう「はいお前有罪」「死刑執行!」をやっています。

そんな家庭内裁判の中で、弁護人をやっていた男がいます。松野カラ松です。彼は2話で「社会でやっていけなそう」「上司とか殺しちゃいそう」「確かに」と有罪を言い渡された一松を「信じてる」と言います。それは実際のところ一松が求めていたものではなかったのですが、とりあえずカラ松は一松を責めません。それは5話カラ松事変を経てすらです。一松はしょっちゅうカラ松に対し粛々と処刑を執り行っているにも関わらず。16話一松事変でも目の前で証拠があれだけ挙がっているのに彼は一松を断罪しません。

それは別に、彼が一松の「有罪」な部分を知らないわけでも、目を背けているわけでも、彼が自分に行われている処刑を嫌がっていないというわけでもありません。「ひねくれまくって卑屈」というという一松の罪状をカラ松はきちんと把握しています。把握しているのとそれを糾弾するのは別の問題です。弁護人とはそういうものです。

一松にしてみたらとんでもなくわけがわからない状況です。一松の視点から見て、カラ松は「一松が有罪であることを知っている人間」でありながら(なんせ被害者です)、「自分を無罪だと主張し続ける」人間です。わけがわからないよ。ついでに一松は「別に死刑にされたっていい」と思っているしそれが当然だと思っています。もう彼はそういう部分も含めて「お前は有罪!!!」「お前は死刑!!!!」と叫び続けるしかない。

なぜカラ松が兄弟に有罪を言い渡さないのか。それは彼が「人を傷つけたくないから」、加えてそれ以上に、「だって兄弟だから」です。ananでもチョロ松のどこが好きかと問われ「兄弟だから!」と答えてみせたのが彼です。そうそうanan読みました。媒体自体がギャグという新しすぎる手法。最高。

 

そんな状況の彼らが弁護士としてドラマCDやります、というこれはものすごくでかい意味があります。このシリーズのドラマCDだからこその意味があります。彼らはこのドラマにおいて、兄弟ではありません。話の中で「松野」という苗字は登場しません。カラ松は一松が長男でないということすら知らなかった。この二人は弁護士と被告であって、他人です。カラ松の「俺の兄弟だから」という理由が消えます。その代わりに職業としてそのポジションが与え直されました。

このCDで彼は一松被告の罪を量ることができる。二人は他人だからです。他のドラ松もそうだったようにこの「職業体験」はわりとぐだぐだでもOKなので(おそ松なんて地下帝国の王様になってるし)実質内容を見てみればこれはカラ松に他人として弟を糾弾する機会が与えられたといっていいものでした。もう弁護士なのか検察なのか裁判長なのか修造なのかわかったもんではありませんが、ともかく、ここでなら「お前は卑屈だ」「お前はひねくれている」「お前は汚い花だ」「というわけで裁判長、死刑です」ということができます。

 

すごくない?すごいことだよ。本編で彼ができなかったことを実現するためにステージが用意されたんですよ。さあ大いにやれよ。あれだけハブかれてきた、お前のためのステージだよ。

 

事実彼は大いにやった。一松にしてみればもちろんわけわかんないテンションに付き合わされているわビンタはされるわ罵倒されるわマジで災難としか言いようがないんですが、彼は少なくとも自分に下された判決は甘んじて受けます。内省型の彼は自分がどういうやつでどのように有罪かを知っているし、その上でそれに釣り合う罰がくだされることを望みます。彼はずっと有罪の判決を受けたかった。殺人現場で血まみれの肉切り包丁を構えていたように。

その上で彼はきちんと兄の相手をしました。キャストトークで言われていた「他のメンツだときちんとツッコんでくれない」という話ですが、私も概ね同意です。一応一松はきちんとボールを受け取ろうという努力はしています。ちょっと向こうが暴投な上に投げ返してもキャッチしてくれないのでキャッチボールは破綻しているのですが、このステージを用意させてしまった原因の一つでもある一松は責任を持ってオンステージの成立に付き合います。律儀だな……そうだよこいつ律儀なやつだったよ……偉い……トラック2でもなんというか、基本的に別人としてきちんとロールして話してるし…

 

で、兄弟ではない二人が暴走した結果、カラ松くんがどこにたどりついてどういう結論を出したかというと、「俺たちは両方不幸だから一緒に泣こう」そして「俺たちは生きているし世界は美しい」です。

 

すごくないですか?????????

 

別に彼は自分が家族に無視されがちなこともニートであることも童貞であることも評価が受けられないことも誤解されがちなこともよく死ぬことも嫌だと思っていないわけではありません。俺たちは不幸だ。しかしそれならば一緒に泣こう。俺も痛かったがお前も痛かっただろう。同じことについて泣こう。それがきっと生きることだし、そうやって生きていきたいし、そうやって年を取っていきたいし、そんな世界は夜でもサングラスが必要なくらいにはまぶしい。

 

ほんとゆるがない。ゆるがないなぁお前は。

今回めちゃくちゃオザキが元ネタになってて、今改めてぐるぐる考えながらオザキ聴いてて、それで雑すぎる情報収集と感覚で言うんですけど、なんていうか彼のアウトローさって「愛なんかいらない」とかそういう方向じゃなくて「世の中で使い古されてる愛が真実かどうかなんて知らないけど、俺は真実の愛のために生きたい」というやつなんですよね。そっちなの。「人間なんか嫌いだ」とかじゃなくて「真実のない人間というやつが嫌いで真実のある人間が好きだしそうなりたい」という方向性。基本的に生きてたいし世界そのものみたいなものへの信頼感がある。まぁ彼は夭折しちゃったんですが……

松野カラ松というのもそういう奴なんですよね。たぶん。

 

なんというか25話の「いいねぇ~」を返した一松を見て「ふふ~ん」って笑ってみせたカラ松というものを分解して純化して精製したみたいな、そういう、そういうポジションにあるCDだったなと思います。カラ松のためのボーナスステージ。そして俺たちの未来は明るい。

「兄弟ではない」という前提でそれを表現する関係性を別軸で構成するっていうのを、松はすでに「じょし松さん」でやっていて、(じょし松さんたちは兄弟ではないけれど、女の子たちは他人同士でああいう関係性を構築できる、という非対称性)、ドラ松3,4はそういうことをやってるんだなあという感覚があります。彼らには兄弟だからできることと、兄弟だからできないことがある。

 

いやはや、すごいなぁ。そして今までの喋っていない尺の分を取り返す勢いで喋りまくり、2クール分の暴行を1トラックで回数的に釣り合わせてみせる勢いで殴りまくった感があるので、そういう意味でもボーナスステージだったなと思います。こんな形で埋め合わせしてくるとは思わなかったぜ……このCDのカラ松の好きな台詞ここで書ききれないぐらいにたくさんあります…

 

いや今回本当にわけがわからなかったし、でもわけがわからないなりに理由はあるし、成立させようという努力の痕跡はあるし、で結局成立してたのかしてなかったのか、すさまじかったな、狂った台本書くほうがきっと難しいんだぞ、しかも彼の中だときちんとロジカルな、それでいて狂っているっていうのすごく難しいぞ、たぶん、まぁとにかくきちんと声を合わせて「閉廷」って言えたことに価値があったんじゃないかなという、うん、そんな感じです。

すごいぞ、あいつら、二人できちんと闘争に幕を引いたんだ。

 

お粗末様でした。