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バックヤード

アニメ「おそ松さん」を血を流しつつ視聴する

「おそ松さん」16話B しんどい私が見てこなかった現実の話

はい、やっとこさ書けます。16話感想です。

 

私は以前から「松野家ディストピア説」を延々と主張していたんですが、なんと今回はAパートでそれにOKを出していただくという、大変に公式様に甘やかされているかんじでスタートいたしました。

最後のチョロ松くんにはもうゾッとせざるを得ないですね。はい。

というわけで今後も松野家ディストピアがどのように動いていくのかを見守りたいと思います。

 

で、でだ、まぁAについて語りたいことも大量にあるんですが、でも、ね、今回は

一松事変についてきちんと考えないといけないので、Bパートについてをメインにしたいと思います。

 

 

今回の話は一言で言えば

「磔にされた一松が時計台の上からおそ松によって墜落させられる話」でした。

 

まずは話を整理します。

・服を脱いで昼寝をしていたカラ松を見つけた一松は、カラ松の服を着てみる

・そこへおそ松が入ってくる

・一松は焦るが、おそ松がどうやら自分のことをカラ松だと勘違いしていることに気づき、カラ松を演じようと試みる

・苦しい言い訳を続けていたところ、カラ松が昼寝から起きる

・状況を察したカラ松は置いてあった一松の服を着て一松を演じ、おそ松を部屋から出す

 

枝葉を落とすとこうなります。いや今回その枝葉がめちゃくちゃ問題なんですけれども。

 

今回の話は、一部カラ松のモノローグをのぞいて、ほぼ全編一松の視点、一松のモノローグで展開されます。

こういった構造の話は、このアニメに今回以前はほとんど見られません。

私はアニメや映画等の映像作品にそれほど明るくないので何とも言えないのですが、モノローグ、そして小説で言う地の文というものは、「嘘をついてはいけない」というのが基本的な読み方と書き方だと思います。「書きたくないことを書かない」「曖昧に書く、婉曲して書く」というのは自由ですが、嘘をついてはいけない。

例外が、「モノローグの主の視点が狂っていることが自明、あるいは後でその狂いが明かされる場合」です。それが13話「実松さん」の構造でした。

 

モノローグの少ない映像作品において、キャラクターの思考というものはとても曖昧です。彼はこう考えていた、だからこのセリフを発したはずだ、ということを、私たちは高速で脳内で行いながらアニメを見ているわけですが、そこに食い違いが起こっているということも十分にありえるわけです。

そして、「おそ松さん」において、その読みはかなり難しい。他のアニメがどうかはしりませんが、特に、1クール目後半あたりから最近にかけてが非常に面倒です。

例えば、14話でトド松は長男次男両方に「一位だよ」と言いました。それは明らかな嘘です。スタバァでわかっているとおり、トド松は嘘をつきます。トド松のセリフには、これは計算された嘘なのか、本心なのか、という疑惑が常につきまとう。暴論を言えば富士山に行ったことだって、兄弟を釣るための計算された嘘である可能性さえあるわけです。

今回、おそ松兄さんが一松の正体に気づいたのか、気づいていなかったのか、そのセリフはどちらにも受け取れるということを、多くの視聴者が考えたと思います。おそ松兄さんに、今回モノローグは一切ありません。そしておそ松兄さんは、9話Bで見せたとおり、「考えたことを黙っていることができる人」である上に、「人を挑発したり、ふざけたりすることもできる人」です。それを考慮して、彼のセリフとアクションだけで判断しなければならない。

それは非常に困難です。しかし、それはいままでも全てのキャラクターでそうだったはずなのです。何を考えているのか、この語り手は信用できるのかできないのか、それがわからない不気味さの存在は今回の長男で表面化しました。今後、私たちは彼と、それ以外のキャラクター達の発言すべてに疑いの目を向けずにはいられません。

 

今回は、おそ松兄さんが果たして本当に気づいていたのかいないのか、という点についての真実はとりあえず置いておいて、考えません。今回は、より「信用できる」情報である一松のモノローグを精査する形で進めます。よって、一松の視点、「おそ松兄さんは自分をカラ松だと認識した」という前提を踏まえます。

 

 カラ松の服を着てみたかった一松、というのが十分衝撃的なんですが、まぁカラ松の格好は「イタい」のであって決して「ダサい」「変」ではない、彼がきちんと雑誌を読んで研究した、TPOさえ合えば間違わなければ「イケてる」方のファッションだったということはよくわかります。(クソタンクトップはあれだ、例外、うんきっと何か血迷ったんだきっとそう)

そして一松はおそらくですがV系バンドやロックンロールを愛しており、元々センスとしてさほど遠くないところにいただろうとも考えられます。

けれど、おそらくアニメが始まった当初の一松にはこの行為はできなかったことでしょう。

六つ子環境は大きく変容し、それぞれが少しずつ外へ出ていくようになりました。その変化は、あれだけ人嫌いだった一松にバイトをさせるまでになった。あのアバンが今回に持ってこられたことには意味が有るはずです。

彼は変化を求めました。そのうちにファッションというひとつの要素があったというのは十分理解できます。

それでも、彼はまだ六つ子という概念の中、15話おでん屋での並びのように長男と三男の間にぬくぬくとしています。おのずと変化は家庭内で可能なものになった。すなわちカラ松の模倣です。

 

しかし、今回で一松は、その行動のせいで身動きがとれないままに、彼が大切に守ってきた「六つ子」というものの現実の形と自分の姿を、おそ松によって見せ付けられることになります。

 

彼について今回の饒舌なモノローグに並ぶもう一つの情報があります。エスパーニャンコです。

彼は人と距離を縮めることができません。価値がない自分が、人の期待を裏切ってしまうのが怖いから。傷つくのが怖いから。

 

彼はおそ松の前で、なんとかおそ松が勘違いをしたままでいてくれるように、一生懸命カラ松を演じました。必死になって、おそ松の考える通りに動こうと、自分の考えに嘘をつき、言い訳をした。その姿はとても滑稽だったということは、彼自身がよくわかっていました。

 

一松から見るおそ松の態度は、カラ松の前での彼の態度、つまり、自分のいない場所での彼の態度です。

 おそ松は「こんなにおいしいにぼしを猫にやるなんて、一松は馬鹿だ」と言い放った。一松のいない場所で、です。彼は初めて自分のいない場所で自分がどのように言われているかを知った。これはもうほとんど陰口です。そしてそれは、友達のいない、友達を作ることを恐れる一松にとって、最も恐ろしいものではなかったか。

 

そして、おそ松は自分のにぼしを勝手に報告なく食べました。14話であれだけ報告の必要性と平等性を主張していた長男が、です。それは六つ子の連帯をなにより大切にする一松にとって最も忌み嫌うものでした。しかし、よく考えてみれば、彼自身もにぼしを兄弟に報告せず隠していたのです。彼が守りたかったルールはただの幻想、虚像にすぎませんでした。

 

そして、彼は自分の保身のために、手段を選ばない、選べない自分をも自覚することになりました。彼は自分が恥をかきたくないばっかりに、親友のためのにぼしを食べ、嘘をつき、カラ松にキャラをなすりつけることまでした。しかし、彼が保身のために手段を選ばない男であったことは、最初からずっとそうだったのです。彼は友達を作れない自分が生きていくために、六つ子の連帯を制裁によって保ってきた。彼はずっと、ずっと保身のために主にカラ松やトド松を制裁してきた。そして、その保身によって、彼は親友を失いました。

 

加えて、彼がそんなにまでして守りたかった六つ子というものの概念の象徴たる長男おそ松は、彼を馬鹿だと言い、ついでにカラ松に化けた自分に気付かなかった。

 

 

メッタ刺しどころの問題ではありません。

彼は元々、的確な状況判断のできる子です。自分が保身のために誰かを傷つけることのできる人間だということに気づいていたはずです。だからこそ自分を卑下してゴミとして生きていた。その問題は今彼の目の前に可視化して現れました。いままで、自覚をしているからこそ蓋をして、見ないようにしていた自分の姿が一気に晒された。

 

彼はこうして、自業自得の状況で退路を絶たれ、転落死しました。

 

しかし、それでは彼が落下した先に待っていたものは何だったのか。

 

それは真っ先に死んだ次男、カラ松でした。

彼はあの状況で自分のすべきことを察し(本当お前よくできたなと感心)、一松に化けました。一松はあの状況で、完全に死んだと思ったところをカラ松に救われた。いままで虐げてきた次男にです。

 

(余談ですが、個人的にはカラ松の演技があまりにも下手くそだったことについてもちらっと。私はあれ、雰囲気は似せられてるのにセリフがガッバガバだなおいって思ったんですが、もしかしなくてもカラ松くんは視覚優先の子というか、どうもよくわからないことについてはお耳のチャンネルを切る子なのではと思っておりまして、だから普段一松の話あんまり聞いてなかったんじゃないかな……そもそも一松あんまり喋らないからデータも少ないし……)

 

 「神かよ」その通りです。

彼は落下し、今までの自分にとっての「六つ子」を見失い、自分自身の姿を直視し死にました。

しかしその下にはきちんとセーフティーネットが敷かれていました。カラ松は一松の思惑に乗っておそ松を部屋から追い出すことに成功した上、「何やってんだ」とは言いましたが彼を責めませんでした。「びっくりしたよ」って……やっぱり神か?神なのか??

彼を救ったのはカラ松の優しさであり、一松もそれを認めました。一松は全ての価値を失いましたが、最後には彼を信じていると言い、愛してきた兄がひとり残りました。

そう、そうだよ、君には「カラ松兄さん」がいたんだよ、昔から今まで、ずっとね。

 

 

思った以上に一松くんが軟着陸を遂げてしまったので、正直この先が私には全くわかりません。

どうしよう一松くんが死ぬのはわかっていましたが、彼がきちんとカラ松という新世界の神に救われるのはもっと時間がかかると思っていました。こんなにも的確に迅速にそれが行われるとは思っていなかった、どうしよう、とりあえず、おめでとう。

 

今回で「超絶信頼できない神」おそ松兄さんと最近めっきり影を潜めた「比較的信頼の置ける語り手」であるチョロ松くん(今回の一松を見ていて思いましたが、チョロ松は口からモノローグがそのまま出てくる男だ、そうだよお前が静かだから最近このアニメは輪郭がブレて見えるんだ、意図的にやってるんだったら相当怖いな)が、今後どうやって生きていくのか、私には妄想はできますが予想ができなくなりました。

 

今回の一松くんについての文章が総じてブーメランとして眉間に突き刺さっていることについては、言うまでもありません。

これが、可視化というものなんですよ。彼はあの状況で自分の姿を目で確認しましたが、私たちはそれをこのアニメでやってるわけですよ。しんどい。しんどいよ。

 

来週も楽しみです。

 

 

 

お粗末さまでした。